プログラムディレクターの佐藤です。今作では主に技術面のディレクションをしました。「マリオカート」シリーズには『マリオカート8』からプログラマーとして携わってきました。他には『ARMS』のディレクターや、「Wii Sports」シリーズ※2のプログラムを担当してきました。みんなでワイワイ楽しめるソフトを担当することが多いです。
朝日です。今作ではミュージックリードとしてBGM周りのさまざまなとりまとめや、作編曲を担当しました。「マリオカート」シリーズには、『マリオカート8』からかかわっています。その他には『スーパーマリオメーカー2』※3などの作曲を担当し、『ARMS』ではサウンドディレクターとして参加していました。
はい。『マリオカート ワールド』は、前作『マリオカート8 デラックス』の発売から約8年ぶりとなるシリーズ新作です。今作では大きなひとつながりの世界を舞台に、これまでのようなコースを3周するレースはもちろん、コースとコースをつなぐ道でレースしたり、「サバイバル」という大陸横断レースもできたりするのが特長です。
昼から夜、夜から昼へ時間帯が変わっていったり、雨や雪など天気も変わっていったりと、そんな日常の環境変化も味わえる世界になっています。
また、レースに加え「フリーラン」というモードを用意していて、ひとつなぎになった世界を自由に走り回ることもできます。
『マリオカート8 デラックス』開発中から「次のマリオカートをどうするか?」を考えていて、2017年3月に試作を開始し、その年末にプロジェクトとして正式スタートしました。
これまでのシリーズで踏襲されてきた個別コースを走るのは『マリオカート8 デラックス』でひとつの形をつくれたと思ったので、今度は大きな世界を走りまわれる遊びをつくりたいと思い、こんなワールドマップをつくっていました。
ぎゅっと密度が高くなっている場所が、これまでの「マリオカート」でいうところの「マリオサーキット」や「クッパキャッスル」といったコースにあたります。前作まではコースをひとつずつ独立したものとしてバラバラにつくっていましたが、今回はすべてのコースがひとつの世界にあってつながっているので、こんなマップになっています。
今作は単純に「どれだけのコースを増やすか」というような、バリエーションと物量を増やしていく方向ではなく、ガラッとコンセプトを変えて、広い世界で遊べるようにしたい、と考えていました。
コースを新たに一個一個増やしていく、という発想だったら『マリオカート9』になっていたと思います。
ですが、今作はそのような進め方ではなくシリーズとしてもジャンプアップをしたいという想いがあり、ナンバリングを一旦やめて完全な新作として『マリオカート ワールド』でいこう、と思っていました。
なので、開発初期のコンセプトアートにもすでに「MARIO KART WORLD」って書いていました。
これまでの「マリオカート」はひとつのコースを遊んだら、次は別のコースに切り替えて遊ぶという流れでした。でも今の技術を使えばシームレスにコースを切り替えていき、継ぎ目のない、ひとつの広い世界を実現するのも夢ではない、と思ったんです。
そこから新しい「マリオカート」を構築しようとスタートを切りました。・・・これが苦労のはじまりだったのですが(笑)。
私は『マリオカート ワールド』の立ち上げ時から参加していたのですが、当時、世の中に広い世界で遊べるゲームは多く存在していました。その開発の大変さは見聞きしていましたから、「マリオカートでもつくれるのか?」というプレッシャーを感じました。
それに、「マリオカート」は秒間60フレーム※4で描画することをずっと大切にしてきたゲームですし、画面を分割して多人数で遊べることも、外せない要素だと思います。ワクワクするけどこれは大変だぞ、という感じでしたね。
私は『マリオカート8』のときにもアートディレクションを担当していましたが、『8』の時点でHD画質になって表現できることの幅が広がったことで個性豊かなコースやたくさんのキャラクターをつくれましたし、ダウンロードコンテンツでゼルダやどうぶつの森のグラフィックスをつくることもできたので、わりと「やりきった感」がありました。
そこに矢吹さんから「ひとつの世界をつくります」と聞いて、「これはちょっと面白そうだな」と。それまでコースを切り替えることでしかマリオたちの世界を表現してきませんでしたが、新しい見せ方ができるし、伸びしろがあるなと思いました。
なので、話を聞いた時点では、大変さよりもワクワク感のほうが勝っていたのですが、それがある意味、苦心のはじまりでした(笑)。
私自身も、『マリオカート8 デラックス』で、コース別に遊ぶ「マリオカート」はほぼ完成形に達したのではないか、と感じていました。
そういう意味で「地続きの世界」で遊ぶ「マリオカート」は、開発者の目線でもやりがいがあると思いました。
ただ、お客さま目線で言えば、特にゲームの続編が出たときって「いろいろ変わっちゃった・・・」というのを時には残念に思うこともありますよね。
だから、つくり手としては、これまで「マリオカート」を遊んでくれていた人にも満足していただきつつ、かつ新しい要素を入れるにはどうすべきかを考えるのが、最初の課題だと思いました。
いろんな景色が全部つながって世界が広がっちゃって、どうしよう!って思いました。これまでは1コースに対して、天候や時間帯も踏まえたオーダーメイドの曲をつくってきたのですが、全部つながって、自由に走れるようになるともっといろんなことを考えなきゃいけません。
コースとコースの間を埋めるための音がたくさん必要ですし、お客さまによって走るルートや走行スピードが異なるので、BGMを切り替えるタイミングも毎度変わる想定をしておかないといけないんです。
これまでのサウンドのつくり方では到底開発が終わらないだろうな、本当に完成できるのかな、と心配していました。
ひとつの世界になるからといって、シリーズとして「マリオカート」が大事にしてきたことは変えないように気をつけました。
今までどおり、家族や友だちとパッと遊べて楽しめるのはもちろん、オンライン対戦※5で切磋琢磨できる深みも出さなければいけません。
これまでのシリーズを遊ばれた方は、遊び慣れた「マリオカート」を求めていると思いますので、そこはちゃんと担保しようと考えました。
今作では「ウォールラン」や「レールスライド」といった新要素もありますが、それらを使わず従来どおりの操作だけでも楽しめるようにしました。歴代「マリオカート」のおいしいところは全部持ってくるつもりで、実装や調整をしています。
開発中、矢吹さんが口癖のように「前作ではこうやっていたけどね」ってずっと言っていましたしね(笑)。
今回、ゲームをつくるためのツールから新しくしたので、プログラム的なしくみも、すべてゼロからつくり直しています。
・・・ですが、矢吹さんから「ゼロからつくり直すだけでなく前作と同じクオリティのものがつくれるツールにするように」ということは強く言われていました。
逆に、デザインの方向性はがらりと変わっています。『マリオカート8』のときはホバークラフトのように変形するイメージから、近未来的で洗練されたデザインを意識していましたが、今作では世界のいろいろな場所を走るということで、「冒険感」を表現しました。
また、広い世界でも楽しんでいる空気感を出したくて、「改めて初代『スーパーマリオカート』のような印象を大事にしたい」って話していて。そのとき、スタッフからポロッと出たのが「わんぱく感」というキーワードでした。
「スーパーマリオ」シリーズのキャラクターは曲線が多いデザインなので、その見た目との相性が合うように車のデザインも丸みを意識しました。
また車に乗った状態でもキャラクター自体がより生き生きとした印象になるように、キャラクターの形の丸みや表情の柔らかさ、動きの豊かさで「わんぱく」を感じる形でまとめました。
サウンドも「わんぱく感」をテーマにつくりました。SE(効果音)でも広大な世界を感じられるように、ゲーム空間のサウンドシステムを見直しつつも「マリオカート」らしい、わちゃわちゃしたにぎやかさも大事にしました。
BGMでは「わんぱく感」にマッチする楽器として、力強い音色が出るハーモニカをフィーチャーし動画メインテーマ曲をはじめ、さまざまな曲に使用しました。
前作はサウンドも近未来的でクールな方向だったんですけど、今回は生楽器の割合を増やして、エネルギーのあるサウンドを表現し、明るい世界に寄りそうようにしました。
前作では12人でしたが、今作の24人という数字はだいぶ早い時期に決めていました。大きい広い世界で長い道をつくっていくと、対戦メンバーがいろんな場所に分散してしまって、レース感が薄くなってしまうかもしれない。
じゃあ、対戦人数を増やしておけばあちこちで競り合いが起こるだろう、と・・・ちょっと安直に(笑)。
当時はこの『マリオカート ワールド』をNintendo Switch向けに開発していたのですが、その中に24人が収まるかな・・・というのはプログラム面からは冷静に分析していました。
ゲーム開発では、いろいろな要素をつくり終わってから最適化して処理を収める、という進め方をするのですが、24人対戦にするということであれば最初からいろんな処理をカリカリに最適化しながらつくっていかないといけない状態でした。
でも、デザイン的にはより「わちゃわちゃ感」が出るだろうなと嬉しい気持ちでした。
それまでの12人でも多い印象でしたが、矢吹さんの言うように対戦メンバーが分散するとまばらに見えてしまい、絵としては寂しい感じに思えてしまうので。
24人だといろいろプレイヤー同士のからみがありそうで、いいなと思っていたんですけど・・・。いざ進めてみるとデザインするものが増えて大変でしたが、やりがいがありました(笑)。
Nintendo Switch向けに開発していたときは、さすがにやりたいことを全部取り入れるのは難しかったので、「何をあきらめるのか」を常に意識していました。
絵を少し削るとか、解像度をあきらめるとか、場合によってはフレームレートを30にしようか、という議論まで出ていましたから、厳しい状態ではありましたね。
何かをあきらめるという判断を先延ばしにしながらつくっていたので、どこかで大変なことになるのはわかっていたんです。
でも、『マリオカート8 デラックス』に、コース追加パスを配信することを決めていたので、「もうちょっと開発を続ける時間はあるだろう」と思っていました。
そんなときにNintendo Switch 2 に移行する話が出てきたので、これは一気にできることが増えるぞと、まさに希望の光でした。
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